掌編

手書きで文章を書く面白さは、頭のなかで考えていることに、書く速さが追いつかないことにある。

手書きで文章を書く面白さは、頭のなかで考えていることに、書く速さが追いつかないことにある。だからキーボードで文字を叩くときとは、書く文章の質が変わってくる。考えている量よりも、書かれるテキストの量はぐんと少なくなる。 ――ということはつまり、…

読んでいるのは私なのに、私ひとりなのに、だれに、というのではなく、言い訳したい気持ちになった。

読みかけの本を開く、とりわけ久しぶり、数ヶ月ぶりにまた読み始める、というときに、私はいつだって、そこまで読んだ話を、登場人物を、彼ら彼女らの行動、その足跡を、つまりはあらすじを忘れているのだけれど、忘れているのはディテールであって、実はや…

【掌編】好きになるまでは呼び捨てなのに、顔見知りでもないミュージシャンでも、好きになったら「さん」付けしてしまうこと。

ピコン! お風呂から出て、片手鍋でビーカーと遮光瓶を煮沸した。アロマオイルをブレンドするのはいつも、遅番の日の夜だ。夜十時に仕事が終わった。帰ってきてヨーグルトを食べた。すべていつも通りだ。ヨーグルトには蜂蜜をかけた。大きな蜂蜜の瓶からスプ…